
「夜這い(よばい)」と聞くと、どうしても「夜中に女性の部屋へ忍び込む危ない行為」といったイメージを持ってしまいますよね。
でも実はそれ、現代の価値観から見た誤解なんです。
民俗学の観点から見ると、江戸時代やそれ以前の農村部では、夜這いは男女の出会いと恋愛の一形態であり、現在で言う“通い婚”に近いものでした。
若者たちが夜、好意のある女性の家を訪れ、合意のもとで関係を築く──そういった交際が普通に行われていたんです。
夜這いが盛んだったのは主に農山村地域。
村というコミュニティの中で暮らす人々にとって、恋愛も結婚も“村内で完結”することが多く、出会いの機会が限られていたため、自然とこうした風習が育まれました。
夜這いにはルールも存在していて、たとえば:
つまり、単なる性的行為ではなく、恋愛と結婚を見据えた「社交の場」でもあったのです。
もちろん、すべてが美談ではありません。
一部には強引な行為やトラブルもあり、そういった事例が「乱行」「集団性行為」として語られることもあります。
しかし、赤松啓介『夜這いの民俗学』によれば、そうした例はむしろ特殊であり、本来の夜這いは社会的に容認された恋愛形式でした。
また、夜這いのルールや習慣は村ごとに異なっていて、たとえば:
など、「秩序のある風習」であったことがうかがえます。
夜這いと似て非なるものに「通い婚(妻問婚)」があります。
夜這いは「プロローグ」、通い婚は「本編」とも言えるかもしれません。
そしてこの2つがセットで存在することで、村の恋愛や家族制度が成り立っていたのです。
ではなぜ、夜這いという文化は姿を消したのでしょうか?
最大の理由は明治以降の都市化と家族制度の変化です。
こうして、恋愛と性を結びつけていた夜這い文化は、“退廃的”と見なされ、徐々に消えていったのです。
「夜這いなんて野蛮」「女性の人権を無視している」と感じる人もいるかもしれません。
でも、当時の人々にとっては、ごく自然で、ごく当たり前の恋愛のかたちでした。
今のようにSNSもマッチングアプリもない時代。
「好きな人に会いたい」「触れたい」「想いを伝えたい」――その気持ちを、夜の静けさの中でそっと伝える。
それは、人間としての“本能的な恋心”にとても素直な行動だったのではないでしょうか。
・夜這いは、農村社会に根付いた恋愛と通い婚の前段階
・無秩序ではなく、地域ごとのルールと合意が前提だった
・現代の恋愛とは異なるが、人間らしさにあふれた風習でもある
・都市化と近代化のなかで徐々に姿を消した