
江戸の吉原――
男たちの欲望と、女たちの人生が交差する、夜だけの都。
この物語は、ある一夜。
“接待”という名の命令に従い、ひとりの花魁がその身体を差し出した記録である。
事実か、創作か。
いずれにせよ、男と女が交わる夜に、真実以外は不要だ。
本文中に登場する名前や屋号は、すべて仮のものである。
けれど、
彼女の濡れた吐息も、
彼の突き立てる命令も、
あの夜に交わされた肉の熱だけは、決して嘘ではない。
「中までどうぞ…武士様のご命令ですから」
── いま、秘められた艶が語られる。
「本日、武家奉行様より“接待”のご下命にございます。」
その言葉を耳にした瞬間、沙羅(さら)の白粉に塗られた顔が、わずかに揺れた。
今日もいつもと同じ、花魁としての一日が始まるはずだった。
けれど、“命令”という響きが、ただの客と違うことを彼女に悟らせる。
――断れない相手。
女将の目線も、いつもと違っていた。
笑顔の裏にあるのは「期待」ではなく、「指示」。
「雪の間をご用意いたしました。どうぞ、たっぷりと…おもてなしなさって。」
沙羅は静かに頷き、部屋を出た。
歩く廊下の途中、ふと襖に映る自分の影を見る。
白粉に映える真紅の着物。
襟元は深く抜かれ、乳の谷間が柔らかく覗いている。
髷には金のかんざしが揺れ、耳元にはほんの少し、汗がにじんでいた。
(命令…ご命令…)
その言葉を頭の中で繰り返しながら、
ゆっくりと帯を解き始める。
下着の下には、まだ誰にも触れられていない温もりが眠っている。
花魁は、ただ抱かれるのではない。
その夜のすべてを“演出する”のが務め。
だが今回は違う。
「接待」――それは、“抱かれることを前提に命じられる”夜。
男の欲に応じて抱かれるのではなく、
「抱かれろ」と命じられて、身体を捧げる。
それは、花魁にとっても初めての感覚だった。
「お武家さま…どんな方かしら」
艶やかな口元に、ほんのわずかに浮かんだ笑み。
だがその瞳は、どこか怯えたように濡れていた。
部屋には、薄紅の香が焚かれている。
沙羅はゆっくりと身を沈め、鏡の前で膝を揃えた。
――もうすぐ、男が来る。
その人の命令に従い、私はこの身体を差し出す。
それが、今宵の“役目”なのだ。
障子が静かに開く音とともに、男が部屋へ足を踏み入れた。
その気配だけで、空気がピンと張り詰める。
花の香、畳の香、そして――男の匂い。
沙羅は襖の前で三つ指をつき、頭を深く下げた。
「華月楼、沙羅にございます。本夜のご接待、心よりお勤め申し上げます。」
返事はなかった。
ただ、無言で部屋の奥へ進み、胡座をかいた男――村瀬左馬之介。
若いが、武士の凛とした佇まいに一分の隙もない。
「座れ。」
その一言で、沙羅の心臓が跳ねた。
声は低く、淡々としている。けれど命令という言葉に、女の身体は確実に反応していた。
沙羅はゆっくりと膝を進め、男の前へと膝を寄せた。
「酒を。」
また短く、ぶっきらぼうな命令。
沙羅は小さな盃に酒を注ぎ、両手で差し出す。
男はそれを受け取り、無言のまま喉を鳴らして飲み干した。
「脱げ。」
――その言葉は、酒よりも熱かった。
「……はい。」
沙羅は静かに、肩にかけた羽織を滑らせる。
赤と黒の絹が、白い肌の上を流れるように落ちていく。
乳房のふくらみが露わになる。
その先にある蕾は、まだ閉じている。けれど、胸の奥はすでに熱くうずいていた。
男の視線が、じっと沙羅の身体をなぞる。
「腰帯も。見せろ。」
「……ご命令のままに。」
言葉は従順。
だが、沙羅の指先が帯に触れた瞬間、ほんのわずかに震えた。
ゆっくり、慎重に――けれど確実に解かれる帯。
下着一枚を残してすべてを脱ぎ捨てたその身体は、まるで**“命令を受けるために仕上げられた裸”**だった。
男は言った。
「脚を、もう少し開け。」
沙羅は目を伏せたまま、膝をずらす。
重なった腿の奥がわずかに見え、
そこには、しっとりと濡れ始めた湿りが光っていた。
「……もう濡れているのか?」
その声に、沙羅は初めて目を上げる。
そして、微笑む――ほんの、微かに。
「お武家さまの…ご命令が、あまりに凛々しゅうございましたので……」
その声は震えていた。
羞恥、恐怖、そして、快感に抗えない悦びが滲んでいた。
男は無言で立ち上がる。
沙羅の目の前に立つその姿は、まるで“快楽の命令者”そのもの。
「次は、触れてよいと命じろ。」
「……お好きなように……お触りくださいませ。これは、ご命令にございますので……」
部屋に、障子の影がゆらいだ。
男の手が伸び、濡れ始めた奥へと指が届いた瞬間――沙羅は声を噛み殺した。
指先が、ぬるりと湿ったそこへ触れた瞬間――
沙羅の背筋が、びくんと跳ねた。
「……ぃやっ……」
反射的に絞り出た声。
だが、逃げることはできない。
それは命令に従って開いた脚の間に届いた快楽だった。
「もう…ずいぶん濡れているな。」
低く、乾いた声。
だがその指は、驚くほどねっとりと優しく、
秘所のひだをゆっくりなぞりながら、じらすように弄った。
沙羅は奥歯を噛んで堪えようとしたが、
濡れは止まらない。
むしろ――指が触れるたびに、濡れの音が部屋に響いていく。
「……くっ、ふぅっ……そんな…触り方……ぁ……」
女の声が、甘く震える。
その声に、男は何も言わず着物の前をはだけた。
視線の先には、怒張した肉茎。
それが、沙羅の目の前でむき出しになった。
「命令する。奥まで、受け入れろ。」
「……ぃゃ……っ……」
沙羅は一度だけ首を振った。
けれど、抵抗の意思はそこにはない。
指が抜かれたあとの空虚に、
沙羅の膣は勝手にヒクヒクと動いていた。
「……わたくし…接待にございますゆえ……っ…お命じ通りに……っ」
その言葉を確認すると同時に、
男の腰が前へ突き出された。
ズブッ――ッッッ
「っ……ああぁああッ!!」
狙い澄ましたように突き込まれた男根が、
湿った花びらをかき分けて奥深くまで貫いた。
布団の上で沙羅の体が跳ねる。
脚は本能的に絡みつき、
腰は自らを求めるように浮かび上がった。
「そこは……ッそんなに強く…っ、あっ、ダメっ…!」
抽送が始まる。
打ち付けられるたびに、ぬちゅっ、ぬちゅっ…と淫靡な音が響く。
「……お命じ…ですから……っ、お好きなようにぃ…っ……」
男は一言も発さない。
ただ律動を崩さず、深く、正確に、花魁の奥を突き続けた。
「イく…ぅっ…ぁあっ、出されるぅ…中に、出され、ちゃっ……!」
そして次の瞬間――
「中に出すぞ。」
低い命令の声。
それだけで、沙羅の身体がビクッと跳ねる。
「…っ…はい…どうぞ……沙羅の奥に……全部、お注ぎくださいませ……っ」
腰が止まった。
どぷっ、どくっ、どくっ……
男の精が、沙羅の奥へと一気に注ぎ込まれていく。
「はぁっ……ふぅ…ぅぅううっ……んっ、んん…っ……♡」
沙羅は喉を震わせながら、
男のものを膣奥でぎゅっと締めつけたまま、絶頂を迎えた。
そのまま、ぐったりと男に体を預ける。
肌は汗で濡れ、膣の奥はまだどろりと熱い液を湛えていた。
部屋には、静寂だけが残った。
まるで、すべての音を快楽が呑み込んでしまったかのように。
沙羅は布団の上で、脚を投げ出したまま横たわっていた。
片方の乳房がはだけ、帯は遠くへ投げ出され、
その脚の間からは――
男の熱が、膣奥からどろりと滴っていた。
まだ、抜かれていない。
男のものは、ゆっくりと沙羅の中で脈打っている。
「……ふぅ、ぅんっ……」
快楽の余韻に包まれた声が、自然と喉から漏れる。
さっきまで、自分がどんな声を出していたのかも覚えていない。
ただ、命じられ、感じて、濡れて、
自分から腰を振って――
「中に出してください」と懇願していた。
(私……なにを……)
熱い恥じらいが、頬を染める。
けれど、不思議なことに、涙は出てこなかった。
むしろ、身体の奥には**“満たされた空っぽさ”**が広がっている。
寂しいのに、心地いい。
犯されたのに、悦んでいた――
それが、どうしようもなく“女”だった。
男がゆっくりと身体を起こし、着物を整える。
無言。
沙羅もまた、何も言えず、ただ濡れたままの身体を抱きしめる。
「……お役目は、これにて……お果たし申し上げました……」
その言葉は、まるで花の散り際のように儚かった。
男は何も言わず、ただ一礼し、部屋を出ていく。
障子が閉まり、再び部屋は静寂に包まれた。
沙羅は、ぬるりと濡れた股の奥を指でなぞる。
そこにはまだ、温かい“証”が残っていた。
そして――
その指をそっと唇に運ぶと、
甘く、少しだけ塩辛い味が、舌の上で広がった。
「……ご命令、にございますもの……」
誰にともなく、そう呟いた。
それは、女としてのプライドか。
それとも、快楽に溺れた花魁の、敗北宣言だったのか。
翌朝――
朝露の湿りが、障子の外から淡く部屋を染めていた。
沙羅は、まだ誰もいない“雪の間”に、ひとり佇んでいた。
昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、判断がつかないほど、静かな朝だった。
けれど、身体ははっきりと“記憶”していた。
膣の奥に残る、抜けきらない熱。
肌に染みついた男の匂い。
首筋に噛みつかれた、赤く小さな痕。
あの夜、
命じられて脱がされ、
命じられて開き、
命じられて奥まで注がれた――
それなのに、最後には、
自分から「奥までください」と言っていた。
沙羅はそっと唇を舐める。
舌の上に、あの時の名残が甦った気がした。
(誰にも……言えないわね、こんな夜のことなんて)
女将に聞かれても、
仲居に詮索されても、
笑ってごまかすだけ。
心の奥の、奥の――さらに奥に隠しておく。
「…でも……」
呟く声が、畳の上で溶けていく。
「もし、また“命じて”くれるのなら――」
「次は……私の方から、ご命令したくなります……」
静かに目を伏せたその頬は、
恋でもなく、愛でもなく――欲望という名の火照りに染まっていた。
そして、障子の外に、朝日が差し込んだ。
沙羅の艶やかな黒髪に、
あの夜の余韻をふたたび照らすかのように。